M&Aを成功させるためのポイントは,準備段階です。
M&Aの準備段階では,スクランブルプレーになりがちなM&Aプロセスにおけるスクランブルの割合をなるべく減らすことが重要です。まあアメフトで言うところの「ゲームプラン」や「プレーブック」を作るをみたいな話です。
まずは,会社内で投資目的・投資クライテリア・投資基準・判断プロセスの策定/設計ということをしっかりやった方がいいんじゃないかと思います。
1つ目,投資目的の設定とは,目的についての議論です。漠然と「事業のシナジーを出す」というレベルじゃなく,より具体的なものです。YahooならECのプラットフォームなんだけどまだファッションは弱いからやろうとか。まあ何かがあって何を必要を特定し,何のためにやるのか,こういう議論です。
2つ目に投資クライテリア,いわゆる形式基準としてますが,まあどういう想定してるからどういう案件をやるか,その辺は先に決めとくと。そうするとまあいろんな情報があった集めてきた時に最初にスクリーニングできるんですね。そういう目的での投資クライテリアということです。
3つ目の投資判断基準は,実際に会社を実際に詳細に見た時にどういう基準が満たされては投資GOか,です。何%の利回りが出ればOKとか,EBITDAの何倍以内ならOKとか,シナジーがこうならOKとか,基準を事前合意しておくと。取締役会での最終判断をするときの基準を作っときましょうということです。
4つ目,判断プロセス。M&A案件を月一回の役員会議とか月2回の経営執行会議とかを待って1個1個のプロセス,例えば意向表明書を出しますとかデューディリジェンスのコンサルタントを決めますとか,独占契約を結びますとか,最終契約に進みます,みたいなことを二週間に一回とかでやっていくのは無理があります。
M&Aの判断プロセスにおいては,機能的に,こういうメンバーで集まって,財務と法務とビジネス,その辺が臨機に集まってやる,もうその人が海外出張してたらメールでもやるみたいな感じで,判断をする会議体をデザインしてなきゃいけない。それで決めたらもうオッケーですっていう形を作っておくと。
さて,1つ目の「目的論」のところでちょっと触れておきたいのはM&Aの意義です。一つは成長機会を獲得,二つ目は過当競争の解消,三つ目は衰退廃業倒産の防止というのがあります。それはもう普通に一般的な整理です。考えておかなきゃいけないのは,買う側の論理だけではなく,買われる側の論理です。
M&Aで買われる側としては何で売るのかっていうところも非常に重要になっている。買う側がそこにミートしてあげることで,安く買える可能性があるし買える可能性・確率が高まるということになりますね。買われる方は,後継者不在とか資本の枯渇とかビジネスモデルの陳腐化とかが課題となってきやすい。それが手塩にかけた会社を「売る理由」となる。
買う側としてのM&Aの意義は,株主へのリターンを満たすことがまず挙げられます。さらにシナジー。事業の拡大は独占市場の形成,垂直統合あたりがテーマになってきます。これから事業会社としても意識しておくべきかなと思うのは,ノンコアビジネスを辞めていくという切り離しのためのM&Aです。
なお,事業会社(非ファンドのことを事業会社と言ったりします。)においては,M&Aをして利回りを出して株主へのリターンを満たすという純投資の目線は,事業のシナジーで長期的成長性が獲得できたとなるとあまり関係がなくなってくるんじゃないかなと思われます(マルチプルが跳ねたためともいえるしDCFにおけるGrowthが数ポイント上がるためという説明もできる)。「この会社競争力あるね」と見られて良い価格が形成できるようになれば無理やりリターンを考えなくてもいいような感じになると思います。かといって純投資の観点をおろそかにすると,ライザップのようになります。
一方ファンドにとってのM&Aの意義としては,まあこれはもう純投資ですね。リターンを生み出すこと,ということになります。M&Aで売却を考えているオーナーさんから,「ファンドNG」とはよく言われます。ファンドには売りたくないと。ファンドに売りたくない理由は二つあり,一つは金儲けに走ったと思われたくないこと,もう一つは,ファンドは年限が決まってるんでもう1回M&Aがされ従業員とっての負担が大きいことです。オーナー経営者のもとでやっていてファンド傘下に一回なってそこで一度混乱しまた何か慣れてきたらまた売るっていう,それがじゃあ次は事業会社でその会社の一部門同然の扱いされる。体制がしっかりしている飲食業のチェーンで,例えばそのファンド傘下で上場できるって言う話だったらまだいいんですが。
事業売却の相手として事業会社が必ずいいかって言うと,必ずしもそうでもないといえます。場合によっては,ファンドを1回挟んだ方が体制整備にコストをしっかりかけて組織経営に移行し,今後またM&Aがあっても揺るがない会社にすると,言い換えると「防御になる」とファンドは考えていると思います。
事業会社への売却の場合のデメリットは,そのカルチャーがフィットするかどうかで処遇が変わるという点です。元々はメインストリームで自分たちがオーナーさんの元でのびのびやってたんだけど,事業会社の傘下に入ったら,もうそのような自由な活動ができなくなるとか,新しい親会社の元ではまあノンコアと言うか周辺になって経営判断のシャープさが失われる場合もあります。あと事業会社への事業売却のリスクとしては,特にバックオフィスや営業機能等で業務の重複がある場合は従業員の雇用が保障されない可能性もあるとされます。
また,ディールフローの潤沢さも重要です。ディールフローが潤沢であればあるほど判断の精度が上がるわけです。少ないディールフローだと目が養われないですし,少ない一個の案件に固執すると確証バイアスに陥って判断は誤りやすくなります。その意味で,M&Aにおいては,ソーシング力が非常に大事になります。
M&Aのソーシングを分かりやくすると,不動産の物件を探したり,あと人材採用の人材募集したりその辺と似たようなことだと思いますね。そっちが先行事例としてあるのでそれをM&Aの業界が追いかけてるような感じですね。また,最近だと「前澤ファンド」という形で大々的にソーシングされた例もあります。ただし,いい案件が集まったかというとそうでもない感じです。
M&A案件は,自然に流れてくるわけではありません。M&Aの目的の明確な提示が必要です。「M&Aしたいです。うちは」という時に何のためにM&Aしたいか,協力してくれる第三者や売り先を探しているオーナーさんに伝える必要があります。その目的に共感してくれる人だけ協力してくれるわけですね。
M&A案件の探索にあたっては,自社のM&Aの目的に即した魅力的な自社の会社案内の作成が必要です。これは事業会社においてもファンドにおいても十分説得的に説明していない場合が多いです。私たちが買わせてもらうとどういう価値が売主及び対象会社に提供できるか,示せるようにしておくことです。
ネームクリアといって,仲介業者がいる場合など,ノンネーム(匿名)で進んでいる場合,どこかのタイミングで,売主の会社オーナーさんは,あなたの会社名をこの買手候補さんに開示していいですかと聞かれます。しかし,開示する相手が魅力的な会社じゃなかったら,自分の会社を売る情報をそんな会社に流したくない,何のメリットあるんですかって話になってしまい,ディールが前に進まなくなります。
そこで,買い手候補として,「M&Aがすごくうまくてずっと増収増益。慣れてるし,傘下に入るとその事業も安定して非常にシナジーも出て事業が発展する,そういうM&Aをたくさんやってる会社です。そういう会社にあなたの会社が売りたいという情報を言っていいですか。」となったら,「会社名を伝えていいです」というふうになりやすい。
一方,「今までM&Aをやったことない会社なんですけど,これからやろうとしてますでもなんか漠然となんか投資したいみたいです。という会社があるとしてそこに,あなたの会社の売りたい情報を開示していいですか」と言われても,オーナーさんは,「そんなとこに開示は駄目です」となります。
なぜ自社にM&Aがすべきか,どのようなプランを持っており,どのような会社をターゲットにしているか,どのような投資スタイルか,情報整理と発信をしっかりするべきと思います。M&Aをやったことがない会社はハードルがありますが,それでもそこは知恵と工夫でなんとかなると思います。不動産取引とはことなり,まだ新しい業界なので。
対象会社の定義についてですが,これは,案件を持っている仲介業者,FAS(Financial Advisory Service)など向けに,求人票みたいなもので,希望業種やサイズなど,しっかり明示するということが必要です。仲介業者やFASは100と案件情報を持っていて,何の情報をどの会社を紹介していいかわからない,そういうところがスタートです。仲介業者やFASがとりあえず付き合いで何社かノンネームの売却案件資料を渡してみても,渡された方が「これはここがダメだから駄目です」とか「これちょっと興味あります」とかそんな話してても,像が浮かんでこないわけですね。どういう会社を買いたいかっていうのをしっかり提示することは大事です。
仲介会社,FAS,証券会社,コンサル,税理士,メガ銀行,地銀,信金…,今みなさんすごく今M&Aの案件開発をがんばっています。
そこで,選ばれる買い手となるにあたっては,対オーナーでのビューティコンテストに勝つだけではなく,こういったM&A案件を持ってきてくれるプレーヤーさんたちからも支持される存在になることが重要です。そのためには,エージェントとの目的志向の関係構築。自社あるいは自分のファンドが M&Aをやっていくにあたって,理念やゲームプランを伝え,紹介料にもコミットすることで,目的を共有して関係構築をする。ここの関係の広さと深さ,その掛け算ですね。それでディールフローの量と質が決まってくると思います。
しかし,不動産と同様で,一般人(インナーサークルにいない人)にはいい案件が回ってこないという側面もあります。M&Aのソーシングに関しては,スペシャルシチュエーションと呼ばれる類型があります。ノーマルシチュエーションと明確な区別があるわけでもないですが,とにかく,案件が指名で来る,という場合をスペシャルシチュエーションと言うことが多いと思います。ネームバリューが上がってくると,オーナーからの持ち込み案件となり,とても安く変える可能性が出てきます。また,相続で早く決めなきゃいけないとか公表して欲しくないから内々にとかのシチュエーションもありえます。
これから新しいのは,「リファラル」で,人材業界でもリファラルがはやってきてきてるんで,例えば自社の取引先にM&Aの案件紹介をしてくれたらいくら払うよとか,そういうやり方もありえると思います。今まだ誰もやってないので,やったもんがちな世界だと思っています。
また,M&Aのプラットフォームのサイトを作ってディールフローを抑えに行くことも考えられると思います。かなり手間と運が必要にはなりますが。
ダイヤの原石がありました。見つけて一番高く買ってくれる人に一番高い時に売るというその流れを想定します。その原石がまずどこにあるか。次に価値があるのかないのか。期間保管しておくための資本。原石を磨き上げて魅力的に見せていくコスト。オークションなどで高く売って得る利益などがあります。
非常にやっぱり重要であるのは,どこにいい案件があるかわからない,ということです。仲介業者の皆さんっていうのは営業活動して,「お前になんで会社を売る話をしなきゃいけないんだ」あるいは「無視」を9割方されているわけです。発掘の価値というのはチャンピオンなんだと思います。